2018年10月24日(水)・25日(木)、高校教育関係者を対象とした「平成30年度全国高等学校教育改革研究協議会」(主催:文部科学省)が開催されました。今年度のテーマは「地域との協働による魅力ある高等学校づくり」。このテーマに2017年の設立時より取り組んできた地域・教育魅力化プラットフォームは、講師派遣や一部プログラムの企画・運営を担当しました。熱い議論が交わされた2日間の協議会の様子をレポートします。(取材・文:藤崎雅子)
会場となったのは、木々の梢が色づき始めた国立オリンピック記念青少年総合センター(東京)。ここに全国各地から、都道府県および市町村の教育委員会担当者や高校教職員など約230名が集まった。少子高齢化の影響で高等学校統廃合や学校規模縮小や進む地域が少なくないなか、「地域との協働による高等学校魅力化」という本協議会のテーマに期待感をもって参加した人も多いだろう。その2日間のプログラムは下記のとおり。第1日目前半に全体プログラム、その後は課題別に分かれてグループ協議が行われた。
〈主なプログラム〉
第1日目〇行政説明「高校教育改革をめぐる最近の動向」(文部科学省)
〇講演「地域との協働による高等学校教育改革について」
講師:岩本悠(地域・教育魅力化プラットフォーム共同代表
島根県教育魅力化特命官) ほか
〇グループ別 基調講演および協議
第2日目〇グループ協議
〇グループ協議報告、指導講評
〈グループ協議のテーマ〉
Aグループ 地域との協働による魅力ある高等学校づくり
※Aグループではさらにテーマを細分化し、5つの部会を開催
Bグループ ICTを活用した高等学校教育の充実
Cグループ 世界で活躍できるイノベーティブなグローバル人材の育成
Dグループ 多様な課題を抱える生徒の能力を引き出す支援体制の構築
これらのプログラムのうち地域・教育魅力化プラットフォームが関わったのは、全体対象の講演と、Aグループの5つの部会協議。参加者同士の活発な対話を重視して展開された。
開会行事直後に実施された「地域との協働による高等学校教育改革」と題する講演には、地域・教育魅力化プラットフォーム共同代表であり島根県教育魅力化特命官も務める岩本悠が登壇。その冒頭で岩本は、研究協議会を創るのは参加者全員であり、1人ひとりが「主体的・対話的・深い学び」を意識して臨んでほしいと、会場に呼びかけた。早速、隣り合わせた者同士が今回の協議テーマへの問題意識について対話する時間を設定。やや硬い雰囲気だったホールは活気づき、程よい緊張感のなかで講演が進められていった。
講師の岩本は、数年前まで、人口減少・少子化が進む海士町にて島根県立隠岐島前高等学校を中心とする人づくりによるまちづくりに取り組んでいた。同校は一時、学校存続の危機にあったが、今では全国から志願者を集める人気校だ。講演では、そこでの取り組みから見えてきた、地域との協働による魅力ある高校づくりのためのポイントが語られた。キーワードは「コーディネーターの存在」「個人からチームへ」「地域課題解決等を通じた探究的な学び」「見える化・評価」「高校設置主体の主体性・協働性」。これらについて、岩本のほか、地域・教育コーディネーター育成プログラムをもつ島根大学の学長、高校の探究学習を支援するNPOの代表、評価システム開発者の話も交えた解説があった。
1時間半という長時間の講演にも関わらず、参加者の集中力は途切れることのない様子。話が進むにつれ、スライドに示された要点を記録しようと、カメラのシャッターを切る音があちこちから頻繁に聞かれるように。当初は「うちの地域には当てはまらないのでは?」と懐疑的だった参加者も、講演終了時には「ヒントをもらった。できることを考えていきたい」と前向きな感想を語っていた。
Aグループには5つの部会が設置され、それぞれ20名前後が参加。全員がお互いの顔が見える程よい規模感で、各テーマに沿った講義や対話が行われた。
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第1部会のテーマは「地域を舞台にしたプロジェクト活動」だ。新学習指導要領でも強調されるなど探究型の学習の必要性が叫ばれるなか、地域を舞台にしたプロジェクト活動に取り組む高校は増えている。一方で、必要性は感じていても、「やり方がわからない」「時間や予算がない」という高校も少なくないようだ。
そこで、第1部会ではまず、島根県立飯南高校(要確認)における地域を舞台にプロジェクト型学習と、それを支援する島根県教育委員会の取り組みについて、それぞれの担当者より紹介があった。
この事例を参考に参加者同士が対話し、そのなかで浮かび上がった2つの問い、「高校はどのような体制で推進していけばよいか?」「県教委はどのような支援ができるのか?」について意見交換。教科と探究の接続や、学校を地域に開いていくことの重要性、また、その方法を県教委が示すのではなく高校と一緒になって考えていく必要性が確認された。
[講師]今村久美(認定NPO法人カタリバ代表・地域・教育魅力化プラットフォーム共同代表)
離島にある小規模校にもかかわらず多様性に富む隠岐島前高等学校では、どのように多様性の土壌づくりを行い、その結果としてどのような生徒が育ったか。第2部会では、同校の事例をもとに、「多様性を育む土壌づくり」に必要なものや実践の具体策について考えていった。
事例紹介には、同校校長・多々納雄二校長と、卒業生2人も参加。校長からは、具体的な生徒の姿や生声を交えた多様性のある環境について説明があった。また、島内から同校に進学し現在は専門学校に通っているMさんと、埼玉県から同校に「島留学」した大学生Iさんからは、同校在学中に感じた多様性や、その環境下で自分がどう成長したについて語られた。フロアからは、「なぜ同校を選んだか?」「その選択は良かったと思うか?」「寮生活はどうだったか?」…など卒業生への質問が相次ぎ、予定時間は大幅にオーバー。卒業生の言葉にしばしば驚きや感嘆の声があがり、多様性のある土壌の重要性を実感する時間となった。
参加者同士の協議では、都市部でなくても、隠岐島前高校のように地方ならではの多様性の土壌づくりが可能だという気づきが話題に。また、教師自身の多様性に対する問題提起も。都道府県を越えた教員ネットワークの構築や、教員のPBL(課題解決型学習)へのチャレンジなどの必要性が語られた。
[講師]水谷智之(地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事)
高校と地域の協働は、高校教職員のほか、高校を設置する都道府県教育委員会、基礎自治体、地域の自治会や商工会、NPOなどさまざまな立場が関わって行われる。第3部会では、そんな多様な立場の人たちが協働する仕組み・体制・チームづくりについて、事例を参考にしながら検討された。
前半で、福島県立ふたば未来学園高校においてNPOカタリバが展開する放課後の学習・キャリア教育支援や探究学習の支援や、岡山県立和気閑谷高校における地域おこし協力隊と教員が共に取り組んだ探究学習プログラムづくりなどの事例を紹介。そうした事例からは、どの立場が起点となって協働してもよく、また、関わる大人たちの主体性・協働性・多様性の大切さが浮かび上がった。
後半は、事例を参考に、協働体制づくりに向けた課題の解決策を探っていく対話の時間。「教職員を本気にするには」「企業と高校の連携を進めるには?」などの課題について話し合われた。最後は、各参加者がもつ課題の解決に向けた「エレガント・ミニマム・ステップ(小さな一歩)」についてそれぞれ考え、みんなで共有。必ず実行に移すことをお互いに約束した。
[講師]岡崎エミ氏(東北芸術工科大学コミュニティデザイン学科長)
中村怜詞氏(島根大学教職員大学院准教授)
高校が地域との協働に取り組む場合、地域社会との関係構築や綿密なやりとりがカギとなるが、多忙な教職員だけでは対応しきれないのが現状だろう。その点をサポートする役割として注目されているのが「コーディネーター」だ。第4部会では、このコーディネーターを学校現場に配置・活用・育成していく方法ついて協議を行った。
まずは、「コーディネーターとは?」の基礎的な理解から。コーディネーターによって業務内容や深さはさまざまだが、現状みられる主な役割は「高校と地域社会の協働体制づくり」「地域社会に開かれたカリキュラムづくり」「地域社会での学習機会づくり」「多様性のある教育環境づくり」「社会資源を活用した企画づくり」だという。また、全国都道府県教育長協議会第2部会の調査(中間報告)によると、現在、都道府県立学校にコーディネーターを配置しているのは19県。コーディネーターの数は計140人と、まだ少ない。しかし、その必要性については43県が「必要」と回答しており、期待値の高さが示された。
その後、数人グループで、コーディネーターの活用に向けた「財源確保」「育成・研修」などの課題について議論。未来に向けた提言がまとめられた。
[講師]岩本悠(地域・教育魅力化プラットフォーム共同代表・島根県教育魅力化特命官)
高校改革のPDCAを回す際の重要な要素の1つである、「評価」をテーマとした第5部会。話題の中心となったのは、地域・教育魅力化プラットフォームが三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)に委託して制作している評価ツール「高校魅力化評価システム」だ。これは、生徒アンケートにより資質・能力等の状況や学習環境を把握し、その結果を現場の改善に活かしやすい形式で出力したり、対話につなげる設計方法をサポートしたりする機能などの特徴をもつツールで、次年度から高校や都道府県にて利用できるよう検討・準備が進められている。
まず、参加者からの問いに回答するかたちで、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究員がシステムの詳細を説明。「地域インパクト評価はどのようになされるのか」「生徒の成長要因を特定する分析はできるのか」「1つの自治体に複数校ある場合の評価はどうなるのか」…など、予定時間を過ぎても切れ間なく質問が続き、同システムに対する参加者の関心の高さがうかがえた。
研究協議では、それぞれが使いたいと考える目的に沿って、さらにどういった調査内容・方法になれば良いのかを議論。成果検証の前提には関係者のニーズ把握・定義が重要であることが確認され、また、地域との協働の効果に影響するインプット指標とはどのようなものかという新たな問いも生まれるなど、今後の評価ツール改善にも有効な協議となった。
[講師]阿部剛志氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員)
喜多下悠貴氏(同 副主任研究員)
2日間にわたる協議会の最後のプログラムとして、Aグループ参加者は一堂に会し、各部会の協議結果が共有された。また、参加者同士で「本協議会での収穫」と「今後『私』が乗り越える課題」をテーマとしたセッションを実施。「関係者との対話の必要性」「踏み出すということ」「チームの大切さ」などのワードが飛び交い、充実した学びへの満足感が伺えた。最後は、岩本氏から参加者に向けた「ぜひ、よりよい高校教育を一緒に創りましょう!」とのメッセージで締めくくられ、すべてのプログラムは幕を閉じた。
参加者アンケートには、次のような感想コメントが寄せられた。
盛況に終わった本協議会を振り返り、地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事・水谷智之はこう語った。
「初日より2日目の方が、参加者の皆さんの表情が明るく、饒舌になっているように感じました。今回設定された5部会のテーマには『正解』がありません。そんなテーマに本気で取り組むことは、『正解』のある教育で育ってきた我々大人たちにとって簡単なことではないでしょう。各テーマで語られたことが、実際の現場で『できない理由』は山ほど挙げることができます。しかし、これを機に、一歩でも半歩でも踏み出すことができたなら、目の前にある壁に小さな風穴を開けることができるかもしれない。いま先進的な取り組みをしている高校でも、うまくいく保証がないなかで踏み出した小さな一歩から始まっています。今回の協議会をきっかけに、そんな動きが始まる後押しできたら嬉しいですね」
全国各地から集まった協議会参加者が、それぞれの地域・学校で小さな一歩を踏み出すことで、日本全体の大きなうねりになるかもしれない――そんな可能性を感じさせる協議会だった。