対談
新体制で迎える設立10周年。横の広がりから、もう一段の「深化」へ 代表理事・岩本悠 × 共同代表・尾田洋平 対談
「意志ある若者にあふれる持続可能な地域・社会をつくる」ー。このビジョンを掲げて走り出した地域・教育魅力化プラットフォーム(以下、CPF)は2027年3月に設立10周年を迎えます。
地域・教育魅力化プラットフォームとはどんな団体なのか。教育? 地方創生? 若者支援?
どれも間違ってない。でも、どれかひとつでもない。
私たちが向き合っているのは、若者をどう変えるかではなく、意志ある若者が挑戦できる社会をどうつくるか、という問いです。
この4月、尾田洋平が共同代表に就任し新たな体制へ移行しました。人事ポリシーも刷新され、組織として新たなフェーズが動き出しています。代表理事の岩本悠と共同代表の尾田洋平に、CPFの「今」とこれからについて聞きました。
岩本: この10年で大きく変化したのは、「あの人だからできた」「あそこだからできた」と言われていた海士町での高校魅力化の取り組みが、地域みらい留学という形で全国約190の高校まで広がり、珍しくなくなったということです。
もちろん、まだ「当たり前」とまでは言えないかもしれません。でも、特殊な成功事例ではなくなってきた実感はあります。これが一番の手応えですね。
市町村だけでなく、都道府県や国といったシステムの動きにもつながり、企業を含めた社会的な広がりを見せられました。一方で、ただ横に広がっていくフェーズを脱し、次はもう一段の深化へと向かう分岐点に来ていると感じています。
尾田: 私もCPFに入って8年ですがフェーズが変わり、臨界点が来ていると感じています。この10年は、事業を大きくしていくこと自体に価値を置いてきました。
結果として累計5000人を突破する地域みらい留学生を生み出し、社会にインパクトを残せた。次の10年は、その桁を変える、さらに大きくなる段階に進んでいく感覚があります。
ただ正直に言うと、「大きくすること自体が本当に価値があるのか」「広げていくことって本当に大事なのか」という問いを、この10年間ずっと突きつけられてきた気もしています。その答えが今、少しずつ見えてきている、次の段階へと進んで行く—。そういう臨界点だと感じています。

岩本: 3つあると思っています。
ひとつは、変化をちゃんと「見える化」できたことです。
実際の生徒や卒業生の姿も見えるようにしてきたことに加えて、数字で見えるようになったことが、ひとつ大きなポイントだと思っています。高校魅力化評価システムなどを活用して、地域みらい留学に関わった生徒や学校、地域の変化を、感覚や体験談と数字で定量と定性どちらも共有できる状態にしてきました。
2つ目は、現場の実践だけで終わらせなかったことです。
一つの学校、一つの市町村だけで頑張るという動きから、都道府県の教育委員会や国レベルでの方針・事業・制度といった深いシステムチェンジも同時並行でやってきたことです。
表面的な横展開だけでなく、仕組みそのものを変えようと意識してやってきました。
3つ目は、人を繋ぐこと。
手前味噌にはなりますが、プラットフォーム機能とコーディネート機能があったことです。
市町村、高校、都道府県、国という縦のつながりと、全国の学校、行政に加えてこの動きを応援したい企業や個人という横のつながりを束ねながら、ともに価値をつくっていける基盤として機能してきた。この3つが重なったことが、広がりの要因だと思っています。
岩本: 当然の流れというか、役割としてはこれまでもほぼ代表に近かったと思っています。
これまでの10年を振り返って、尾田くんはCPFや地域みらい留学の成長を組織の中で牽引し、名実ともに中核となるリーダーでした。
組織内だけでなく、自治体や企業を巻き込んで事業を進めてきた実績と能力がある。今後の進化というフェーズにおいて、代表という形をとることでこの動き自体をさらに大きくしてもらいたいと思いました。
10周年だからというより、タイミングとして今がまさにそうだということです。
尾田: 悠さんは、これまで私があまり見たことのないタイプの類まれな変態性を持った人です(笑)。
ビジョンオーナーというのか…。ただ、まだ輪郭も見えない未来のビジョンを形にしていくためには、戦略や組織、資金、人が重要になる。
CPFがどのような組織であるべきか、どう社会にインパクトを起こすべきか、そのようなところを考えて実行していくことが私の役割です。
悠さんのビジョンをCPFのビジョンとして重ね、翻訳していくことで世の中を良くしていくことに対し注力したいです。
ただ、、、少し正直な話をすると、悠さんは「CPFという主語のことをあんまり考えない人」なんですよ(笑)。
最初の頃は「代表なんだから、もう少し組織のことも考えてくれよ」と思った時期が正直ありました。でも一緒にやってきてわかったのは、悠さんは自己満足でやっているわけでもCPFを軽んじているわけでもなく、全てが手段で常に社会のことを考えている。
だから行動の主語が「CPF」ではなく「社会」になっている。そのギャップを言語化して、今に繋げていくのが自分の役割だと思っています。

岩本: 私の強みは社会起点の理念や構想、新しい領域への探索です。抽象度の高いビジョン理念や仕組み、構造を考えたり、そこに向かって発信し、進めていくのが役目です。
一方で尾田くんはそれを組織として事業化し、持続可能な状態に持っていくことに長けています。お互いの持ち味は異なるので、それぞれが得意な分野をうまく発揮していきたいです。
もう一つ率直に言うと、私は自分のことを「鵜飼いの鵜」みたいな存在だと思っています(笑)。未知の領域に踏み込んで、何かある可能性を確かめる先遣隊のような役割です。
ただ、組織全体が一気にそういうリスクゾーンに入ると大変なことになる。だから少人数で未知を探索しながら、確度が見えてきたら組織全体で展開する。そういう役割をやらせてもらっているという感じはします。
尾田:そうですね、そういうことがだんだん言語化されてきたという感じがします。
付け加えると、2人で完璧にしようとは思っていないんです。お互いに不足している、という認識はある。でも、2人で揃うとお互いの強みと弱みは補い合えているという感覚もある。それ以上に、今いろんな人が加わってくれる中でさらに良い未来が作られ始めている。なので2人で完結させようとか、2人で完璧な経営者になろうとか、そういう発想はあまりないですね。
悠さんが見つけた価値の種を、さらに広げて価値を最大化していきたいですね。悠さんは社会全体のことを見据えているがゆえに、組織の中から見ると「なぜ今それをやっているのか」が伝わりづらい場面があります。そのギャップをつなげ、解釈してわかりやすく置き換えるのも私の役目かなと思っています。
岩本: 私たちが目指すのは、「意志ある若者にあふれる持続可能な地域・社会」です。そのためには、我々自身も意志ある大人でありたい。未来をつくっていく持続可能な組織として、言行一致であり、誠実でありたいという願いが根底にあります。
新しい未来を作っていくことに共感し、それを多様な人たちと共につくる「共創」、そしてその起点となるのが「越境」です。我々自身が越境し、成長し続ける姿を見せていくことが重要だと思っています。
それと今回「未来」を加えたのは、私たちが作りたい未来・社会像への共感を、もっと正面に出したかったからです。一緒に働くということは単にスキルを持ち寄るということではなく、「こういう未来を作りたいよね」という感覚を共有できる仲間と走ることだと思っています。
これまでそれをちゃんと言語化してこなかった部分があって、今回明確にしたという感じです。
尾田: 明治や昭和のようにゴールが決められ、経済成長していく時代から変わり、今の社会は便利で安全になる一方で、個別最適化が進み、分断社会になりつつあると感じています。その中で、社会に対して当事者であり続けるための「越境」と、分断をつながりに変えていく「共創」が手段として必要です。
そして、より良い「未来」を多様な人と一緒に形にしていく。この3要素が、今の時代を生き抜き、次世代につなげていくために不可欠だと実感しています。

尾田: 今のままでいいとか、自分が良ければいいという人ではなく、より良い未来を作るために自分自身を変化させ、主体的に行動できる人。そして、組織の内外を問わず、共感と信頼で様々な人と繋がり、新しい事業を作っていける人と働きたいですね。
それ以上に私が期待しているのは「私たちが引こうとしているレールを、超えていく人」です。自分たちの想定したプロセスを確実に実行してくれる人ももちろん大事ですが、その人が入ってきたからこそ、想定していた未来がより良くなっていく——そういう変化や進化を起こしてくれる人が来てほしい。私たちの期待値を超えていく人が加わることで、CPFが進化し続けられると信じているので。
岩本: 今までのやり方を踏襲したり、現状維持の「守り」に入ったりすることは絶対に避けたいと思ってます。未来に向けて常に自分たち自身が「越境」し続け、多様なセクターと「共創」できる人であってほしいです。
岩本: この10年間、多くの方々の応援や支援をいただきながら社会的価値を生み、組織としても成長させてもらってきました。これからの未来では、今の120%や130%といった直線的な成長だけでなく、飛躍的で非連続的、非計画的とも言えるような社会的イノベーションを、この分野において沸き起こし続けられるCPFでありたいですね。
例えばの話ですが、GAFAがアメリカのどの州のどの街に本社を置いているかを気にする人はあまりいないと思います。組織の可能性は、拠点ではなく、何を目指しているかで決まる。島根を原点に地域を大事にしながらも、決して地域に閉じない。
東京にいなくても地域から全国や海外に向けて発信できることを、私たち自身が体現していきたいです。
尾田: 私は今の良さを失わずに進んでいきたいと思っています。悠さんは「固定数を変数化できる人」です。その思考を止めることなく、「社会のホットスポット」を探し続けてほしい。
私は現場の推進力を活かしながら、そこを具現化していく。どちらが欠けても成り立たないこの両輪を回し続け、より良い未来を組織の力で形にしていきたいです。

岩本 悠(いわもと ゆう)
(一財)地域・教育魅力化プラットフォーム 代表理事
東京生まれ。学生時代にアジア・アフリカ20ヶ国の地域開発の現場を巡り、その体験学習記『流学日記』を出版。その印税等でアフガニスタンに学校を建設。
幼・小・中・高校の教員免許を取得し、卒業後はソニーで人材育成・組織開発・社会貢献事業等に携わる。
2007年より隠岐島前高校魅力化プロジェクトに従事。
2015年から島根県教育魅力化特命官として教育と人づくりを推進。
2016年第一回特別ソーシャルイノベーター最優秀賞(日本財団)受賞。
2017年に一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォームを設立。
文部科学省中央教育審議会、経済産業省産業構造審議会、内閣府総合科学技術・イノベーション会議等の委員。
共著に『未来を変えた島の学校 -隠岐島前発ふるさと再興への挑戦(岩波書店)』『地域協働による高校魅力化ガイド -社会に開かれた学校をつくる(岩波書店)』
尾田 洋平(おだ ようへい)
(一財)地域・教育魅力化プラットフォーム 共同代表
島根県浜田市出身。大阪大学大学院工学研究科、社会人大学院大学「至善館」修了。
2011年(株)リクルート入社。観光情報サービス「じゃらん」の中国エリア責任者や業務支援領域の立ち上げなどを歴任し、2018年6月に退社。
同年7月より地域・教育魅力化プラットフォームに参画。常務理事・事務局長を経て専務理事として事業全体の統括を担い、2026年4月に共同代表に就任した。
「地域みらい留学」の事業総責任者を務めるとともに、自治体・高校・企業との共創による教育魅力化の推進に取り組む。
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